水音
部屋中に安らかな珈琲の香りが漂った。


「オレにも娘がいるんだ。前の奥さんとの…」

コウさんが口を開く。

「若かったし、デキ婚だったから色々あったケド、生まれた時は嬉しかった。」


あたしは黙って聞いていた。

「オレも若い時は馬鹿ばっかやったけど、娘は可愛かった。きっと、悠奈チャンの彼氏もそう思ったはずだよ。」

「そうかな…?」

「ただ男は弱いからな…」

あたしはイマイチコウさんの言葉が飲み込めない。


「オレの娘も悠奈チャンみたく育つといいな。家出娘はカンベンだけど。」

そう言って笑いながら、いつものように頭を撫でる。



穏やかな時間が流れる。

他愛もない会話を何時間もした。

一度だけ、咲さんが覗きににきたけど、

「仕事さぼって、困った不良中年だなぁ」

って言いながら、無理に連れて行くでもなく去っていった。

二人の優しさを感じる。





差しこむ日差しがオレンジに変わる頃、

「あたし帰ります。」

あたしはようやく決心がついた。

とりあえず、快と話をしよう。



「いつでも来いよ。」

もし、快と別れても、居場所があるんだ。

それの言葉が勇気をくれた。

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