甲子園の奇跡
「心、彼氏待ってるし先に行くね」

遠慮がちに言う奈々に手を振りながら、あたしはすぐ傍にいる彼を意識しまくり。


「じゃあな」

笑顔で言って、ここを離れようとする諒大。

「え?」

驚いたようにして、諒大はあたしの顔を見た。


諒大の着ているユニフォームの一部を右手で掴み、引き止める。



「練習、見に行っていい?」

「え?いや、試合も近いし…なぁ?」

諒大は傍にいる他の部員に同意を求めるようにして、あたしと彼らの顔を交互に見ながら言う。


「いいんじゃね?」

「邪魔にならないように見てるなら。でも、うるさくすると監督に怒られるから気をつけて」

見学の了解を得て、嬉しくてあたしは笑顔になる。


練習が始まり、ネットごしに見学。

でも、あたしが興味があるのは『野球部の練習』じゃなくて、『野球部のあの彼』なんだけどね。


グランドでは守備練習が始まり、1つのミスの度に監督が部員に声を掛けて集合させ、口頭で説明しながら守備の確認をする。

一生懸命やってるんだあ。


その中でも一番、彼は輝いていた。


あ!諒大、邪魔!

彼が見えないじゃない!
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