甲子園の奇跡
「また投げてるー。肩痛めるから駄目だよ」

「壊したのは左。右で投げてるし、少しなら大丈夫」

言いながら、目標を定め諒大は振りかぶる。

放たれたボールは壁に当たり、コロコロと転がった。


「試合に出るのは無理だけど、投げるのは好きだから。こうやって投げ込んでると落ち着くんだ」

転がったボールを拾いながら、笑顔で諒大は言う。



「仕方ないなあ。グローブ貸して」

「なんで?」

「あたしがキャッチボール付き合ってあげるって言ってるの」

「女には無理だって」

「そんなの投げてみなきゃ分かんないじゃん」


言い出すと聞かないあたし。


一瞬、空を仰ぐように上空を見つめ、諒大は一球を放り込んだ。

バシッと皮のグローブを鳴らして、ボールは受け止められる。



驚いて目を見開く諒大。

それを見て、あたしは勝ち誇った顔。


「心って…何かやってた?野球?ソフトボールとか?」

「ソフトボールもやってたけど、軽い草野球程度なら」

「マジ?お前、グローブはめた瞬間、目つき変わったし」


話しながら、あたしのはめたグローブには諒大の放った第二球目が、再びいい音を立てて食い込んだ。
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