甲子園の奇跡
「あ…れ?」

きょろきょろと辺りを見回したけど、誰もいない。


すると、

「どこ見てんの?こっち」


声が聞こえて、あたしは気がついた。

地面にしゃがみ込み、下から見上げてる諒大の姿。


「明日の準備は大丈夫なの?」

すかさず聞くと諒大は立ち上がる。



ほんっと野球バカなんだから。

こんな時までもユニフォーム姿。


練習を終えたその足で来たのかな?

思わず笑いが漏れそうになった瞬間、諒大はくるっとあたしに背を向けた。



―――背中に縫い付けられた背番号【18】の数字。



「このユニフォーム、さっき渡されたばかりなんだ」

諒大の声は心なしか震えている。


「監督が…これ着てベンチに入れって。ずっと我慢してみんなを支えてくれてありが…とって言ってくれたんだ…うっ…ぐすっ」

話しながら涙声になっていく。



諒大は野球部のマネージャー。甲子園では記録員としてベンチに入る。

背番号の貰えないマネージャーは制服を着るのが通常。


だけど、監督は野球部員全員を集めて、こう言ったんだそう。

『背番号18は高野だ。今までよく我慢してマネージャーの仕事に徹してくれた。明日からも頼むぞ』


「今日、俺の誕生日なんだ。18歳の誕生日に18の背番号って、何か特別な感じがする」

涙を拭いながらの泣き笑いで、諒大は言った。
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