甲子園の奇跡
「この間のことなんだけど…」

それとなく切り出してみた。

あんな中途半端なままだと納得がいかない。


「そのことか」と諒大は言うと、小さく息を吐いた。


「返事いらないって言ったよね。俺が勝手に言っただけだし、心が恭亮を好きなのは知ってる。だから…いいんだ」


え?あたしが倉内先輩を好きって?

諒大、誤解してるよ。

憧れてた時はあったけど、今はもう好きじゃない。



「話それだけ?帰ろう。泊まってるとこどこ?送ってくよ。俺もみんなの所に戻らなきゃだから」

「違うよ、諒大!」

「いいから。もう帰ろ?」

優しく微笑むと、諒大は何もなかったかのように背を向け、歩き出す。



―――寂しげな笑顔。

この間と同じ。


あたしに目もくれず、諒大は足を先を進める。

小さくなってく諒大の背中を目で追いながら、胸が痛くなって、何かが込み上げてきた。



置いてかないでよ。1人にしないで。

『…い…かないで!』


喉の渇きが気になったけど、声を振り絞って叫んだ。
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