甲子園の奇跡
声に反応して、諒大が少し離れた場所で足を止め振り返った。


「や…だよ」

呟きながら、あたしの目からは涙が零れ落ちる。


こんなの知らない。

こんな気持ち分からない。


でも、諒大に置いていかれるのは凄く嫌だ。


様子が変だと思ったのか、諒大は慌てて駆け寄り、あたしの様子を伺う。

頬に伝った涙をそっと指で拭い取る諒大。



「な…んで行っちゃうの?なんで話聞いてくれないの?」

言いながら、あたしの目からは次々と涙が零れ、頬を伝う。


「わ、分かった。ごめん。聞くから。話聞くから」

慌てて言うと、諒大はあたしを落ち着けようと背中をさする。


「諒大?」

「うん?」

「あたし、倉内先輩好きじゃないよ。憧れてた時はあったけど、今は何も感じないの。それよりも…」

収まりかけた涙が再び目から溢れる。



「いかないでよ。あたしの傍にいて。諒大に冷たくされるの…やだ…よ」

「心?」

「一緒にいて。分かんないけど、あたし、諒大のこと好きなのかも」


言って、自分でも驚いた。

もう訳が分からなくて、感情に任せて言葉を発してたけど―――



そうなんだ。

あたし、諒大が好きなんだ。


気づいた瞬間、今まで心の中にあったもやもやが綺麗に晴れて、すっきりした気分だった。
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