゚。*゚甘い魔法にかけられて゚*。゚
私はどうしていいか分からなかった。
こんな事言われたの…初めてだったから。
すると何も言えずにいる私に、
「お前、名前は?」
「…里村です。」
私はそう名乗った。
普段から人に名前は言わない。
…あんまり好きじゃないから。
「里村か。…下の名前は?」
別にいいじゃない名字だけで。
何なの、この人。
だいたい、
「人に名前を聞く前にあなたこそ、名乗ったらどうなんですか?さっきからお前だのあんただの…」
私は別に怒ってるわけじゃない。
ただ…男の子と喋るなんて久々で、どうしてもツンツンした言い方になってしまう。
そんな私の態度なんか気にも留めない様子で、おかしなイケメンはこう名乗った。
「俺は、高原 葵。」
手に持っていた古くで角なんかこすれてボロボロの本を肩にトンと乗せる。
そんな仕草をこの人がやると、ひどく特別な仕草に見える気がする。
あ、この人じゃなかった。
“高原先輩”だ。
ネクタイが3年生の紫色だった。
「で、下の名前は?」
な…まだ聞く?
私は仕方なく、なるべく小さな声で呟く。
「…あ、杏…です。」
「聞こえねー。」
え―?
「…杏!里村 杏!」
気づくと、座っていたイスから立ち上がる勢いで私はそうはっきりおっきな声で名乗っていた。
すると、高原先輩はしてやったりみたいな意地悪そうな笑みを浮かべた。