蒲公英
だけど、リビングには部屋中に沙羅の匂いが溢れていた。

ひどく魅惑的な香りの空間。











僕はもう…自分を抑えることなどできなかった。











すぐに沙羅を抱きしめ、キスをした。

沙羅は拒まなかった。

そのままソファに倒れこむ。

そこでやっと、沙羅が僕の口の中でなにかをささやいた。




「…なに?」




返事を待ちきれず、すぐに唇をふさいでしまいたい欲求を必死に抑え、僕は荒くなった息と共に聞き返した。




「ひとつだけ、お願いがあるの」

「なんでも聞くよ」

「少しでいい。ちゃんとこっち、見て?」




僕はすぐさま間近で沙羅の視線を捕らえた。

沙羅は優しい瞳で僕の髪をそっとなでてくれた。






今思えば、あんな獣のような真似をしておいてよくもぬけぬけとなに?だなんて聞けたものだ。

沙羅からしてみれば、他にもっと言いたいことも言うべきこともいくらでもあったはずなのに。

初めから、僕は彼女の優しさに甘やかされていただけなのだろう。






でも沙羅はそれ以上なにも言わなかったし、見つめた僕を見て静かに微笑んでいただけだった。











もう、僕の欲望を阻むものはない。
< 26 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop