蒲公英
「そりゃ、あれだろ。俺らの中で結婚してるのって未来と春日だけじゃん。だから仲間内以外の人が入ってくるの、きっと恐いんだろ。今みたいな関係、壊れちゃうんじゃないかって」

「普通、そんなこと考えて泣く?」

「なにを恐れて泣くかなんて人それぞれだろ。長い間、ずっと同じメンバーだけでつるんできたんだ。それがいきなり終わるって言われたら俺だってきっと泣くよ。河南子がこないだ友達の結婚式で泣いたのと一緒だ」

「そう、かもしれないけど…」

「今度春日に会ったら言っておくから。心配しなくても俺は変わらないって。だから河南子ももう心配するなよ」




なにもやましいことはないはずなのに、あきらかにしゃべりすぎた口を閉じ、河南子の手を取った。

僕らは普段手を繋いで歩いたりはしない。

だからこれは黙らせるための強攻策みたいなものだった。

同時にどんどん言い訳がましくなっていく僕の口も黙らせたかった。






恋人が手を繋ぐ理由としてはあまりにも不純だ。






「わかった。疑ったりしてごめんなさい」





たったひとつの動作で、僕はすべてを河南子のせいにしたのだ。

だが河南子は照れながら半歩後ろに下がり、そっと手を握り返してくれた。






「わかってくれたならそれでいいよ」

「ありがとう」






繋いだ手が…、なんだか白々しく思えた。
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