蒲公英
Gegenwart Ⅱ
仕事の帰り、一面に広がる田んぼの畦道を駆け回るふたつの人影を見かけた。
遠目にもよくわかる馴染みの姿。
大樹とあかりだ。
あかりのトレードマークである長いポニーテールが跳ねている。
僕はふっと微笑んでそちらに足を向けた。
「湧己!」
あかりが気づいて手を振る。
ふたりは畦道の横を流れる水を手で掬って互いにかけあっていた。
「どんなデートだよ」
僕は苦笑した。
いつものことだが、色気もないもあったもんじゃない。
最近の中学生や高校生の方がよっぽど大人びている。
「デートじゃないって」
「俺らが別れてどれくらい経ったと思ってんだよ」
「そうそう。もう一週間も経つんだからね」
「お前らがいつつきあってるかなんていちいち覚えてられねぇよ」
明るい声で別れたと告げるふたりに僕は言った。
大樹とあかりは大学時代から何度も懲りずにくっついては別れることを繰り返していた。
その回数をいちいち数えていたらキリがない。
たぶん当人たちにもわからないだろう。