蒲公英
けれどふたりは決してふざけた気持ちで傍にいるわけじゃない。

ただお互いに意地っ張りなだけ。

離れられない、大切な存在だと認められずにいるのだ。






どちらももう好きだと言うことさえないという。

でもふたりは別れていても、他の誰かとつきあうことは一度もなかった。




「で?今度はなにが理由?」




いちおう社交辞令のつもりで僕は聞いた。

あかりが待ってましたと言わんばかりに勢いよく訴える。




「だって!大樹ってば私がつくったご飯、まずいって吐きだしたんだよ!?せっかく大樹が好きな親子丼つくったのに!」

「てめぇで食えねぇもんだすからだろうがっ!」

「でも吐くことないじゃない!」




勝手に言い争いを始めたふたり。






確かにあかりの手料理は食えたものじゃない。

あれを親子丼とは認めねぇ!と喚く大樹に実際料理を見るまでもなく共感できる。

僕も昔、無理やり食わされたことがあるが、一度で懲りた。

あれを何度も口にしている大樹の勇敢なチャレンジ精神には尊敬と同情の意を拭えない。
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