蒲公英
「あかり…」

「あ。稀沙!」




タイミングよく通りがかった稀沙に気づくと、あかりは逃げるようにそちらへと駆けていった。

大樹の手がひきとめるように伸びる。






だがそれは空を掴んだまま、力なく落とされた。




「…マジかよ」




大樹が呟く。

あかりが他の男と…なんて、僕にも信じられなかった。




「引きとめてやらねぇの?」




あかりは自棄になってバカをやってしまう、子供じみたところを持っている。

そうして後で必ず後悔する。

本当は大樹と別れる度、隠れてこっそり泣いているのだ。

今度も自棄になって他の男を選んでしまい、あとで泣くことになるのではないか。

そう思うと僕の心は痛んだ。




「別れたばっかりだぜ?…言えねぇだろ」

「けどさっ」

「悪ぃ!」




行動を促す僕を大樹は大声で遮った。




「…帰るわ」




そのまま彼も逃げるように去っていった。

稀沙と話していたはずのあかりもいつのまにかいなくなっている。
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