蒲公英
だけどその後、人がいなくなってから、捨てられるはずだったあかりのご飯はすべて大樹の胃袋に収まった。




「…水」




その晩片付け当番だった僕と沙羅に何度も水を求めながら、顔を真っ青にして、それでも大樹は一粒残さず平らげてみせた。




「無理しないで残せば?」

「うるせ。食うって言ったら食うんだよ」

「でも絶対腹壊すぞ?つーからどうせ食べるならあかりの前で食ってやればよかったのに」

「いいんだよ。あいつを甘やかしたら図に乗るだけだろ」




生ゴミの袋を用意していた僕が見兼ねて言っても聞きやしない。




「よっぽどあかりが好きなんだね」

「…うるせ」




あかりが見てくれてるわけでもないのに。

大樹は何度もむせながら、ちょっと恥ずかしかったのかそっぽを向いて水を飲み干す。

僕らは顔を見合わせて笑い、追加の水をついでやった。






大樹はそういう男だ。

こんな言い方は変かもしれないけど、その不器用な優しさがたまらなく愛しかった。
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