蒲公英
「大樹…」




意を決したようにあかりは大樹の隣に佇んだ。




「私、結婚なんかしない」




バッと僕らの視線が集まる。




「だから…。だから…っ!」

「だからなんだよ?」

「…なんで引きとめてくれないのぉっ?」




あかりは泣いていた。

大樹は答えない。

相変わらず無表情のまま、氷のとけたバーボンの水割りをいじっている。




「情けねぇなぁ」




不意にマスターが言った。




「え?」

「情けないぞ。神野」




繰り返された言葉に大樹が顔をあげる。

その表情は先程と打って変わって怒りに染まっていた。




「俺のどこが情けねぇっていうんだよ!?」

「情けないだろう?返事のひとつもまともにできないなんてな」

「こいつに言うことなんかねぇだけだよ!」

「ならそう言え。橘の目を見てはっきりとな。黙ってやりすごそうなんて汚いぞ」

「思ってねぇよ!」

「じゃあ言ってみろ。言えるもんならな」
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