蒲公英
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」

「なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけ」

「そう。じゃあお邪魔して悪かったかしら」

「いいよ。会いたかったんだろ?」




からかうように僕が言う。

河南子は不安そうだった顔を赤らめて俯いた。




「もぉ、湧己さんったら」






――会いたかったんでしょ?湧己は甘えん坊だね。






会いたいと言うのはいつも僕の方だったのに…。




「河南子」




過去に吸い寄せられる意識を必死に掴みながら、僕は縋るように河南子を呼ぶ。






ここにいるのは河南子なのだ、と。















言い聞かせなきゃ分からなくなりそうだった。
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