蒲公英
「なぁに?」




目の前の女性が笑う。過去の女性も一緒に微笑んだ。




「久しぶりだな。家具とか旅行のカタログ抜きで会うの」

「そうね。こういう時間、すごく好き」

「そう?なにか選んでるときの河南子、すごく楽しそうだけど」

「そうだけど。でも…」




河南子は口ごもると、ためらいがちに僕の肩に寄りかかった。

そっと右腕を回してやる。






沙羅の特等席は僕の腕の中だった。






「あのね、予定より少し早くなるんだけど」

「なに?」

「父が、週末辺りになら越してきてもいいって」

「え?」




新居への引っ越しの話だ。

予定では式とハネムーンを終えてから移転するはずだった。




「だって湧己さん、知らないでしょ?新居の庭に、今すごくたくさんの蒲公英が咲いてるのよ?」






「…蒲公英?」






僕の中でなにかが弾けた。
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