蒲公英
「傘、持ってきてないの。帰るとき貸してくれる?」




いつもは帰りたがらない河南子だったが、今日の僕には未練はないらしい。

まともに話も聞かず、視線をそらしたままの僕には用などないのだろうか。

あきらかに態度が悪いのは僕の方なのに、なぜだか捨てられたような虚無感を覚えた。

先程まで人肌に触れていたはずの右手が異様に冷たい。






僕は河南子を抱きしめた。






「…なら帰るなよ」






僕の脳裏で、霧雨が沙羅の睫毛を濡らしている。






「湧己さん?」

「泊まっていけよ」






今夜はどうしても…、ひとりにはなりたくなかった。
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