蒲公英
だけどある日、そんな僕にひとつの事件が起こった。






勝手に男をつくってどこかに消えたはずの元カノが、いきなり僕を訪ねてきたのだ。






彼女の名は真弓という。

真弓は明るい女性だったが、そのときはとても哀しげな瞳をしていた。






「やっぱり私には湧己しかいないの」






男に捨てられたばかりの真弓は言った。






薔薇のような女だと思った。

相変わらずの美しさだったけど、真弓には棘が見えた。

きっと僕を利用してはまた捨てるつもりだ。

次の男ができるまでの繋ぎだろうか。






なぜこんな女を一瞬でも愛せたのか分からない。

そのときの僕には沙羅しか見えていなかった。






だから僕はなにも言わなかった。

それでも真弓は必死に訴え続けている。






< 62 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop