蒲公英
昨夜、僕は沙羅を抱かなかった。

狭いシングルベッドで背を向けて、ひとりうずくまりながら目を閉じる。

沙羅はなにも言わなかった。






だからきっと、沙羅は僕の動揺に気づいていたのだと思う。











「沙羅っ!」




彼女は簡単に見つかった。

すでに綿毛さえ残っていないあの場所で、傘もささずに雨に打たれていた。






霧のような雨だった。




「風邪ひくよ」






そっと傘を差しだした僕。



沙羅はバっと身を引いてそれを避けた。






…初めての拒絶だった。
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