蒲公英
「湧己」




だけど沙羅は微笑んだ。

濡れた睫毛がまるで泣いているかのように揺れている。






「…大好きだよ?」






沙羅は僕を責めようとも、問いただそうともしない。

ただ僕が一番ほしい言葉をくれた。






僕は傘を捨てた。

ぐいっと引き寄せた彼女の肌は思わず戸惑ってしまうほどに冷えきっている。

今度は沙羅も拒まなかった。






ぬくもりを求めるように震えた腕が背中に触れる。

もしかしたら沙羅は本当に泣いていたんじゃないかと思った。




「沙羅…」




僕は彼女の優しさに甘えていた。




< 66 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop