蒲公英
僕が来たかったのは大学だった。

卒業以来、一度も訪れたことはない。






誰もが目をそらし続けてきた、沙羅との想い出の場所。






「おい。なに考えてんだ?」






大樹が少しきつい口調で問った。

ここに来れば嫌でも沙羅の笑顔を想いださずにはいられない。

それはみんな一緒なのだ。




「だめかな?」




僕は言った。




「結婚する前に、もう一度みんなでここに来たかったんだ」

「だめってわけじゃねぇけど…」




戸惑いを見せる大樹と未来。

僕らは校門の手前で立ち尽くしていた。

ここで過ごした日々の記憶はこんなにも鮮やかなのに…。






あと一歩で入れるはずの想い出への道程は、果てしなく遠かった。
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