蒲公英
僕らは校内の想い出深い場所を選んでゆっくりと歩いた。






例えば入ってすぐのところにあるロビー。

みんながいつも同じ授業ばかりを受けていたわけではないけど、ここに来ればたいてい誰かに会えた。

一番手前のテーブルが僕らの定位置だ。






例えば広い教室で行われる必修授業では、僕らはいつも一番後ろの席を陣取った。

講師の話などそっちのけで語り合う。

後ろがうるさいと講師がぼやくたび、肩をすくめて微笑みあったものだ。

大樹がマジックペンで書いたツノを生やしたあかりのイラストは、5年経った今でも机の隅に変わらず健在していた。






例えば僕だけが選んだ講義が行われる小ホール。

沙羅がいないこの場所に僕は違和感ばかりを感じていた。

でも退屈ではなかった。

壁一枚を隔てただけの沙羅にずっとメールで愛を送っていたから。
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