紙ヒコ―キ
「きっと、この街を引っ越すから寂しいんだろうな…って思った。」
“さよなら”。
黒いペンで、太く書かれてある。
たったこれだけの言葉に、どれだけの想いが詰まってるのかな…。
「……懐かしい。」
葵は目を細めて、そう呟いた。
「…確かに、この街を引っ越す事になって書いたんだ。この街がすごく好きで、友達もたくさんいたし、引っ越したくなかった。…でも、小さい俺が、そんな事言う訳にはいかないし。1人で生きて行く事は、やっぱり無理だったから。」
葵の瞳には、きっと昔の自分が映っている。
「引っ越す当日、紙ヒコ―キを飛ばそうと思って。名前も書いて、家から飛ばしたんだよな…。」
それが、あたしの所に落ちてきたんだよ。
「でも、まさか拾われてたなんて。信じられない。」
あたしも、会った時に信じられなかったよ。
まさか、あの葵?って…。