空き瓶ロマンス
「信也、さん……」
――よかった、いた。
「……倫子」
彼も、同じように私の名前を呼んだ。
「あ、あの……さっきは……えっと……」
考え無しに駆け寄ったものの、思った以上に言葉が出て来なかった。
さっき起こった事が、一気にフラッシュバックする。
白い猫。ぐらぐら揺れる、埃まみれの足場。逆さまの床。突然のキス。
お互いぼっと、顔が赤くなった。
でも、信也さんが恐る恐る、こちらに手を伸ばしてくる。
いいか? と尋ねるように、そっと。
私はその手を取った。いいんですよ、と頷く。
数秒後、髪のほつれた埃まみれのゴスロリ崩れな私は、彼の腕の中にいた。
ぎゅっと力強く、抱き締められる。
「……すまなかった」
耳元で、そっと彼は囁いた。
「こちらこそ……」
私も同じように返して、目を閉じた。
ゆっくりと、深呼吸する。
彼は今、ここにいる。
もう、怖くない。