空き瓶ロマンス
雨が降り始めたのだ。
乾燥した季節には珍しく。
やがて室内に、ぱぱらららという軽い音が、つけっ放しのヒーターの轟音に混じり、やわらかく響き始めた。
「――そんな倫子が、選んだんだよ」
父親は、何も言わなかった。
「男嫌いで、まったく浮いた話の無い、あの真面目人間の倫子が。
初めて本気で人を好きになったんだ。
それって、駄目な事かな」
「…………」
「一応、相手の先生はさ……俺もよく知ってる人だし、物凄く頼りになる人だ。
職も安定してる。
……っていうか、あの先生なら俺も正直、応援したいと気持ちが傾いてるくらいなんだよね」
「…………」
「もちろん、無理に俺がくっつける、って真似はしないけど。
だって、個人間の問題に部外者がちょっかい出すのはマナー違反……とまあ、それはいいとして」
「…………」
「多分、どう転んでも、倫子はこの家から出ては行かないと思うんだ」
「………?」
父親は若干、首を傾げた。
修が苦笑する。