空き瓶ロマンス



以前、物置の奥にしまわれていた古いアルバム。

好奇心から開いたその写真の中には。
 
若い頃の父の隣で微笑む、倫子そっくりの女性がいた。
 
それが母親かどうかなんて、一発で分かった。

「倫子はさ、物心ついた時にはもう、当り前に家事をこなしてて」

「…………」

「成長していくに連れ、料理のレパートリーも増やして、

洗濯とか掃除も、それなりに出来てさ」

「…………」

「でも、努力してないはずが無いんだよ。

同い年の子に比べても、随分遊ぶ時間だって少なかっただろうし。

……そりゃ、ちっちゃい頃は、俺も親父も何かしら分担してたけどさ。それでも」
 
修は、遠くを見つめた。


「倫子は、優しいんだ。可哀想なくらいに」


家に縛られてる、という言い方は。

きっと倫子自身望まないだろうが、今はそれに近い感じだった。

だけど倫子はそれすら受け入れて、家族のために自分の時間を削る事を厭わない。


< 692 / 891 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop