空き瓶ロマンス
遺言
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数日後、私はある市内の総合病院の一室にいた。
狭くて無機質な個室。
薬品っぽい消毒された匂いと、死の匂いが合わさった独特の空気で満たされたそこは、
お世辞にも快適そうには思えなかった。
だけど、ベッドの隣にあるサイドテーブルに置かれた花瓶には、花が生けられていて、
何もかも白っぽい病室の中で、やけにその花だけ、場違いなくらいカラフルだった。
ベッドの上でやっと体を起こしてこちらを見ていた病室の主は、痩せこけた中年の女性だった。
下手したら、老女にも見えかねない容貌の彼女は、白くてふんわりしたキャップを頭に被せてはいたけど、
それは髪の毛がほとんど無いからだと一目で分かった。
もう体中のあちこちに腫瘍が転移していて、
一日に何度もモルヒネを使って痛みを誤魔化していて、
早い話……末期ガンだった。
苦しみに耐えながら、静かに死を待つ。
それが、私の母の今の姿だった。