空き瓶ロマンス



「この度は、ご愁傷様で……」

「いいですよ、そんな」
 
てっきり怒られるのかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。

そして彼の、先程みちるをぶん投げた人間とは思えないくらい畏まった態度に、つい苦笑してしまった。


「この前少し話しましたけど……母とは、本当にずっと、一緒には暮らしてなかったんです。

ですから正直、あまり『肉親』を失った、という気がしないんです……」
 
こんな事を、両親のいない彼に話すのは、残酷かもしれない。
 
でも、あまり可哀想がられたくないのが本音だ。

「それで……喪に服して、髪を切ったのか」


「いいえ、そんなんじゃありませんって。

でも……遺影で、少し若い頃の母を見た時、私に物凄く似てたのが気になって……。

まあ、イメチェンって言えばイメチェンでもあったんですけど、心の整理というか、

何と言うか……髪を切ったら、凄く楽になれたんです」
 

ああ、そうか。

だから女の子は、何か立ち直れないような事が起こると、髪を切るのか。
 

それまでの自分と訣別するために……。



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