空き瓶ロマンス
続いて彼は、倫子を思い浮かべていた。
赤ちゃんを抱っこして、笑う倫子の姿……。
顔からボッと火が出そうになったところで、彼は正気に戻った。
(いや、駄目だ。
今、手を出したら、犯罪だ……!)
『もうー、聞いてるー?』
長谷川が、不満そうに言った。
慌てて信也は、返事をした。
「え、ああ……すまない。もう一度言ってくれないか?」
『だーかーら、来週の日曜日!
一緒に買い物付き合ってくれるんでしょ?』
「え……?」
『あ、いっけなーい!
回覧板回すの忘れてた。
じゃあね、そういう事だから!』
「ちょっ……待っ……!」
――ツー、ツー、ツー……。
話を聞いていなかった事を詫びる前に、電話は切られてしまった。
かけ直したが、繋がらない。
大方、携帯電話をソファーやテーブルにでも放ったまま、家事をしているのだろう。
回覧板がどうの、と言っていたから、外出してしまったのかもしれない。
結局信也は、来週の日曜日に、他人の新妻と出かける事になってしまったのだった。