空き瓶ロマンス



新しい劇の主人公は、厳正な審査の結果、チャーキーになった。

ヒロインのゴス死神は、後輩のヒム。

私は、かなり多くの部員から「ぜひに」と乞われてはいたのだが、

丁重に辞して、大人しくスタッフにまわる事にした。
 

少し前に、ガンで母を亡くした。
 

そんな私に死神の役をやらせるのは、不謹慎だと思ったらしい。

あまり、しつこく誘われなかった。
 

そして今は、主人公の友人(男)役になったグミの胸に、さらし布を巻き付けるのを手伝っている。
 

今まで、ほとんど男の役しかやって来なかったチャーキーにとっては慣れた作業のようだが、

これまで女の子の役しかやってこなかったグミには、大変な事だった。
 

私は、一年生の時、先輩に「さらしを巻くコツを教えて下さい」と言った事を思い出した。
 

その時、先輩は笑顔で答えてくれた。


「胸を、寄せて上げるの。

で、思いっきりぐにっと潰して……」


「痛たたたたたっ!」
 

さらしを巻く時、ブラジャーは着けない。当たり前だ。

胸をなるべく平らに見せるために、布を巻くのだから。
 

しかし、実はさらし布は、身につけると、とても落ち着かない代物だったりする。


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