空き瓶ロマンス
 


視界が小刻みに揺れた。
 

鼻の奥がつんとなった。
 

悔しかった。


そんな程度の事で、怒鳴られたのかと思った。


八つ当たりどころか、恩を仇で返されたようだった。


そんな私を見た大川さんは、


「……でも、私はあなたが正しいと思うわ」
 

ぽつりと、言ってくれた……。


「……トーション、新しいやつ持ってきます」
 

私は、食器の水気でぐずぐずになったトーションを握りしめ、バックヤードに向かった。


大きな冷蔵庫や、ラックや、色々なものが納められた棚の隅に蹲って、泣いた。
 


卑怯者、卑怯者、言いたいことがあるなら、直接自分の口で言えばいいじゃないか……!
 

私は好意で言ったのに、どうしてそれを素直に受け止めてくれないんだ、僻むんだ!
 


悔しくて、情けなくて、疲れて頭が混乱していた事も手伝って、私は声を殺して、泣いた。


けど、泣いたことをあの二人にだけは絶対に知られたくないと思い、必死でそれを拭った。


これ以上涙が出ないように、耐えた。


< 828 / 891 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop