空き瓶ロマンス



「……分かりました。


そういった形で、お願いします」
 

私は深く頭を下げた。あくまでもこれは私の我儘なのだ。


社会に出れば、こんな事はたくさんあるだろう。


年上の人にもっと徹底的にいじめ抜かれたり、いびられたり、色々あるだろう。


私は逃げたのだ。


一番簡単で、一番惨めな手段を使って、自分を守ったのだ。


それなのに、突然こんな事を言い出した私に、オーナーの表情も言葉も、優しい。


「あーあ、鳩羽さんの作ったマドレーヌが、しばらく食べられなくなると思うと、寂しいわ……」


「はは。落ち着いたら、また作りますから。


……それでは、失礼します」
 

丁寧に挨拶をして、事務所を出ようとした時、ふとオーナーが独り言のように言った。


「……せめて、男手がもう少しあれば良かったんだけど……」
 


返事をしようかどうか迷って、結局聞こえないふりをしてしまったが、


私の頭の中には、ある考えが閃いていた。



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