絆
食事が終わる頃、店員になにか耳打ちをしている。
「なに?」
わたしが聞くと、夫は少し笑った。
久々に見る、そんな顔にわたしは戸惑った。
「ねぇ、お父さん変じゃない?」
息子に聞くと、息子もニヤニヤ笑っている。
そこへ……
「お待たせいたしました」
店員がトレイを持ってやってきた。
そこには、モンブランが乗っている。
テーブルの真ん中にそのケーキを置くと、店員は去った。
目を丸くしているわたしに、息子が言った。
「誕生日おめでと、こっちは俺から。」
手渡された包みを開くと、ビーズでできたケータイのストラップだった。
「いちお、手作りだから。」
驚いて、言葉が出なかった。
そんなわたしを満足そうに見つめながら、夫が言う。
「いつもありがとう、かあさん。」
温かいものが頬を伝う。
「忘れてた……今日、誕生日だったのね…」
久々に見た家族の笑顔と向かいながら、わたしは思い出していた。