絆
「お前の母親であることだけが、生きていく支えだったんだ。」
伯父の帰ったあと、その言葉を思い出して、遺品の整理をしよう、と思い立った。
どこか信じ難いその言葉が本当なら、どこかに母の痕跡が残っていると思ったのだ。
それは、押入れの隅に置かれた、椿の描かれた箱の中に眠っていた。
家計簿だった。
俺がこの家にいる間、毎日欠かさずにつけられていた。
献立も毎日きちんとメモしてあった。
もっと驚くべきことに、俺の好きなおかずには、ちゃんと印がしてあったのだ。
そうして、思い出す。
記憶にいる母は柔らかい笑顔の人だった。
それは、母親の顔だったのだ、とやっと俺は気づいた。
胸に熱いものが込み上げる。
日陰の暮らしの中で、何度もくじけそうになる度に、母は椿の姿を思ったのだろう。
凛とした母であろうとしたのだろう。
他でもなく、それは俺のために……
震える心に、一輪の椿を飾ろう。
それは、母という名の、永遠に色褪せぬ花。