No.Aの持ち主は、老夫婦だった。

子供のいない老夫婦は、家の中の世話をしてくれるアンドロイドを求めた。


単なる家政婦アンドロイドとしてではなく、我が子の様に二人は彼女を慈しんでくれたという。



しかし、持ち主のご主人が亡くなり、後を追うように夫人も亡くなってしまったために、彼女はここへ戻ることになったのだ。




「もし、私に涙を流すことができたなら、きっと今、私は泣くでしょう。」



誰に言うでもなく、彼女はポツリと呟いた。


「胸が熱く痛むこの感情を、人は淋しい、と言うのでしょうか?」



その質問に、私は胸を突かれた思いがした。


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