絆
とりあえず会計を済ませて、とりあえず歩き出す。
あたしたちのデートには、とりあえずがやたらと多い気がする。
スクランブル交差点を渡りながら、ふっと思う。
とりあえず……
「帰ろうか」
あたしの言葉に彼はキョトンとしつつ、いいよと苦笑した。
会ってからまだ一時間半しか経ってないのに、とは言わない。
黙ってあたしの家に向かって歩き出す。
「今日は機嫌がよくないね」
口数の減ったあたしに、彼は困ったように言う。
「そんなことないよ」
言いながら少し、言葉にトゲがあるかもなと思う。
また黙り込んで、手をつないだままただ歩いていく。
あたしの隣りで彼はダルそうに、また欠伸をした。
「今日さぁ、駅に向かう途中で、前のバイトの店長に会ったの」
「ふーん」
「戻っておいでって誘われたの」
「ふーん」
あたしのどうでもいい話に、どうでもよさそうに彼が相づちを打つ。
その瞬間に、訳の分からない衝動がやってきて、あたしは彼に抱きついた。