夢の彼方
「―――ごめんなさい。言い訳しようもないです。1人で仕事をするのはやっぱり大変で―――ご主人の好意に甘えてしまいました。でも、これだけは信じてください。わたしとタケル君は、友達以上の関係はありません」


そんなわたしを、千鶴さんは容赦なく睨んだ。


「そんなこと、信用できないわ。あなたたちはかつて恋人同士だったじゃない。それなのに、単なる友達だなんて言葉、信じられると思う?」


「でも、それが事実です。それに―――恋人同士と言っても、ほんの何ヶ月か付き合ってただけで、デートも数えるほどしかしたことないし―――友達と大して変わらない付き合いしかしてませんでした。わたしたちは―――最初からそうだったんです。友達という関係の方がしっくりいったんです。だから―――」


「だから、別れたっていうの?わたしと付き合い始めたのが原因でしょう?そうじゃなければ別れたりしなかった」


「それは―――」


「あなたたちは誰が見てもお似合いの2人だった。でも―――わたしはどうしても彼が欲しかった。だから―――彼を誘惑したのよ」


千鶴さんの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。


「あなたに恨まれてもいいって思った。好きだったのよ、彼のことがずっと。彼が答えてくれて―――結婚してくれるって言ってくれた時は夢のようだった。子どもなんかいなくても―――あの人がいてくれるだけで幸せだった」


「千鶴さん・・・」
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