夢の彼方
「後で見てもらえればわかるけど―――母さんはお祖父ちゃんの遺産には一切手をつけてないんだ。自分が働いてためたお金で、充分生活はできていたらから自分には必要ないって。だったら、俺たちや―――孫のために残しておきたいって」


そう言って、兄は庭で遊んでいる子供たちを見た。


「―――じゃあ」


「うん。俺たち兄弟3人で、1億ずつ分けてくれって。喧嘩せず―――仲良く分けて、無駄遣いはしないで家族と、世の中のために使えって」


わたしたちは3人兄弟だ。


母と2世帯同居していた兄夫婦。


そして弟はまだ独身で、働きながら日本中を旅していた。


葬儀の時には来ていたけれど、また旅に出たと言っていたけれど―――。


「颯太のやつは、とりあえずいじらないで貯金しとくって言ってたよ。またここに戻ってきて落ち着いたら、使い道を考えるって・・・」


「そっか。颯太らしいね」


昔からマイペースな男の子だった。


自由奔放で、縛られるのを嫌がる颯太は、結婚はせずに30歳を過ぎた今も旅をしながら自由気ままに生きているのだ。


「―――お前のことは、、母さんは1番心配してたよ」


そう言って兄は目を細めた。


「借金があるんだろ?でもおまえは、母さんにはそれを言わずに自分で解決しようとしてる。母さんはそれがわかってたけど、お前から何か言ってくるのを待ってたんだ」


「そう・・・知ってたんだ・・・」


「子供が3人もいて、1人で育てていくだけだって大変なのに―――ってすごく心配してた。でも、頼ってくるまでは見守っていようと思ってたみたいだな。今まで―――大変だっただろ?」


兄の優しい言葉に。


思わず涙が零れそうになる。
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