夢の彼方
「結婚してください」


聞き間違いかと思った。


仕事を終え、家に戻ってきた私に、田口はそう言ったのだ。


「信次の代わりに、僕が奥さんを幸せにします!だから、結婚してください!」


血走った目でわたしを見つめる田口に、わたしはぞっとするものを感じ思わず身を引いた。


「―――ごめんなさい。わたしは、あなたと結婚するつもりはありません。仕事も―――もう手伝っていただく必要はありません」


そう言うしかなかった。


田口は悲しそうに私を見つめていたが―――


「また来ます。諦めませんから」


そう言い残すと帰って行った。


諦めないと言われても、わたしの答えが変わることはないのに―――。


そう思いつつもわたしは家に入り、しっかりと戸締りをしたのだった。


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