夢の彼方
そしてその翌日。


今度は信次の高校時代の親友だと言っていた渡辺という男がわたしの仕事中、姿を現したのだ。


「昨日、田口がプロポーズして行ったそうですね。あいつと、付き合うんですか?」


「まさか!お断りしましたよ」


「そうですか、やっぱり―――。あいつが、これからはあなたには自分がついているから、あなたにはもう会いに行くなと言ってきたんで―――」


何でそんなことに?


わたしはぎょっとして思わず身を震わせた。


「―――あいつには、気をつけた方がいい。昔から、ちょっと危ないところがありましたから。あなたのことは―――僕が守りますよ」


渡辺の言葉に、わたしは戸惑った。


「いえ、あの―――わたし、自分の身は自分で守れますから、どうぞ気にしないでください」


「そんなこと言わないでください。あなたのことを、守りたいんです。すぐに結婚してくれなんて言いません。ただ―――僕は、あなたのことが好きなんです。だから、あなたを守りたい」


どうしてそんなことを言うのか。


信次の友達といっても、私自身はほとんど会ったことがない。


まともに話をしたのも葬儀の時が初めてなのだ。


どうしてそんな人たちが?


戸惑いながらも、わたしは首を振った。


「困ります。わたし、今は誰ともお付き合いするつもりはありませんし―――誰かに守ってもらう必要もありませんから。もう、来ないでください」


わたしの言葉に、それでも渡辺は『また来ます』と言い残し、帰って行った。


また来ると言われても、答えは変わらないのに―――
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