夢の彼方
「あなた、まだまだきれいだもの。とても38には見えない」


そう言ったのは倉庫の管理をしてくれている取引先の問屋の女性だった。


もう60過ぎのその女性は、先代の社長の奥さんで、今は社長を引き継いだ息子と一緒にこの問屋を経営していた。


「20代って言っても通るわよ」


「まさか―――褒めすぎですよ」


「そんなことないわよ。すごくきれいでかわいくて―――できればうちの息子の嫁に来てほしいくらいだわ」


今の社長は40代半ばで独身だった。


別に顔が悪いとか太っているとかいうわけではなく、出会いがないのだと言っていた。


「わたしも、生きているうちに孫の顔が見たいんだけどねえ」


そんな呟きに、わたしは何と答えていいのかわからず曖昧な笑顔で返し―――


倉庫を後にしたのだった。


そして家に着くと、そこにはまた、田口の姿があった―――。


「お話したくて」


田口はそう言ってわたしを見つめた。


「ごめんなさい。わたし、田口さんの気持ちには応えられません」


「それは今の気持ちですよね?もっと僕のことを知ってもらえれば・・・・・」


「困ります。わたし、今は自分たちのことだけでめいいっぱいなんです。誰かとお付き合いするとかそういうこと、考えられないですから」


どう言ったらわかってもらえるんだろう。


家の前ていつまでも話していたら、近所の人にも妙に思われるかもしれない。


そんなことを考えて、イライラし始めた時だった。


突然玄関のドアが開き、長女の里菜が顔を出した。


「ママ、おかえり」
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