夢の彼方
「ママ、ちゃんと食べてね」


次女の紗菜が心配そうにわたしを見る。


里菜の3つ下の紗菜は大人しく物静かな女の子だが芯は強く、頭のいい子だった。


小柄で顔も小さいけれど目はパッチリと大きく、長く伸ばした髪はさらさらと流れるようで、ぱっと目を引くような美少女だ。


「そうだよ!里菜がせっかく作ったんだから!」


そう言って元気にぴょんぴょん飛び跳ねているのは末っ子の瑠加だ。


小学1年生の瑠加はやんちゃな男の子。


色白でパッチリとした目と長いまつ毛は女の子のようだったが、少しもじっとしていられず走り回るのが大好きな元気いっぱいの男の子だった。


子供たちの様子にわたしは苦笑した。


「ママのことは心配しないで。大丈夫だから」


わたしの言葉に、それでも子供たちは不満げに顔を見合わせたのだった・・・・・


実は、信次の葬儀が終わってからというもの、食事が喉を通らない日が続いていた。


原因はわかっている。


『あんたのせいで信次は死んだのよ!』


史子の言葉が、頭から離れないのだ。


わたしのせいで信次は死んでしまったのだろうか。


だとしたら、わたしはこうして生きていてはいけないんじゃないだろうか。


こうしておいしいご飯を食べていてはいけないんじゃないだろうか。


そんな思いが胸に沸き上がって来て、食べ物が喉を通らなくなってしまうのだ。


もちろんそんな考えが間違っていることはわかっている。


子供たちの為、今わたしに何かあっては困るのだ。


ちゃんと食べて、ちゃんと働かないと。


わかっているのに体がいう事をきかない。


どうしても食べ物が喉を通っていかないのだ。
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