ガールフレンド
乙女峠
 津和野の冬は、雪景色が似合う。
 養老高校三年生の恵利佳は親友の佑子に呼び出され、乙女峠マリア聖堂内で対面していた。
「話って何?」
 恵利佳はここ数日泣き濡れている。彼氏に振られたからだ。憂鬱に、身をやつれさせている。早く帰りたかった。
 何時になく強張った姿態の佑子は、開口した。
「木村君のことやけど」
「え」
 心労の核心を衝かれ、恵利佳は目を見張った。
「あなたなのね」
 浩二の相手は、という台詞を恵利佳は呑込んだ。
 佑子は落涙で応えた。
(何で貴方が泣くの?)
 恵利佳は親友の裏切りに怒りが込み上げてきたが、佑子の素直な涙珠に更に傷つき、発露できない。
 歯科医の愛娘佑子は小学校以来の、竹馬の友である。華奢で小柄で肩まで伸びた黒髪が、艶やかだ。
 長身で活発な農家の娘、ショートカットの恵利佳とは、正反対だった。
 馬が合いジャージの交換をしているほどの、刎頚の友なのに。恵利佳はすすり泣く佑子を憎悪したかったが、不思議と憎めない。それが又遣る瀬無いのだ。
 殉教者を祭るマリア聖堂内で、対峙した状態に堪えられなくなった。恵利佳は口走った。
「気にせんでええよ。次の人見つけたから」
 恵利佳の虚言に、佑子は返答できない。
(あたしって、どうしてこうなんやろ)
 恵利佳は悔やんだが、後の祭りだ。沈黙に圧殺されそうだ。恵利佳はドアを開いた。

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