紫陽花の雨

2日目―あの時も、雨だった。

 『…瑞葉?』
2年前の6月6日。
あの日は梅雨真っ盛りで、土砂降りの雨が朝から降っていたっけ。
『ねぇ、瑞葉、瑞葉ってば!』
私に背を向ける影に、あたしは叫び続けた。
彼女は傘も持たず、バス停を眺めていた。
『…瑞葉、ねぇ。』
あたしは彼女に駆け寄り、肩をたたく。
―ぱしんっ。
『!?』
手を振り払われたあたしは、状況を理解できなかった。
『やめて!近づかないで!このままじゃ私…。』
鈍く、金属が光る。
『…亜雨を、殺しちゃいそうだから…。』
そう言って彼女は道路へ飛び出した。
『瑞葉!!』
叫びすぎて、喘息の発作が起こりそうだった。最期に彼女は、あたしに一言を残した。
『…また、明日』
「!!」
―夢だ。あたしはほっとして、深呼吸した。
今は放課後、裏庭のベンチの上。読んでいたのは「静寂と夢花火」。
どうやらこれのおかげらしい。
「…何でまた…。」
もう2年も経ったのに、まだあんなにはっきりと覚えていたなんて。
彼女の周りに広がった紅い血が、まだこんなに鮮明に思い出せる。
あれはまるで、そう、あれは…
「…彼岸花」
ベンチの傍らに咲く、赤い彼岸花。あの血と、よく似ていた。
もう思い出したくもないのに、まだ鮮明で、生温い感触を、思い出せてしまう。
あたしはやっぱり、あの日が本当にあったと、信じたくない。

目から雨みたいに大粒な涙が、ぼろぼろと零れた。
久しぶりに、こんなに出てきた。
「…独りにしてよ」
誰かが肩をたたいた気がしたから、そっちを見ずに言った。
「お願いだから、一人で泣かせて…。」

空は晴れてるのに、私の心は土砂降りだった。
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