過去作品集○中編

奴に殴られた腕は少し赤く腫れていた。
こりゃ明日には紫になるなぁ……

『翔!』

と、突然後ろから声がして振り向くと……
そこには今にも泣きそうなユカがいた。

『ユカ! 危ないから来るなって言っただろ!?』

『だって、翔が心配で……』

心配って……
ユカが殴られた方が、俺は困るんだよ。

何度も傷付けられねぇよ……


『あ…… えっと初めまして! ユカっていいます!』

少し間を開けて、桜に気付いたユカは笑顔で自己紹介をする。

『少し、お話していかない?』

どういうつもりか、ユカは困った様子の桜を強引にファミレスへと誘った。



『えー!! 今、翔と同棲してるんだぁ?』

『ユカ…… 同居だってば』

何故か三人でファミレス。
有り得ない状況に上手く頭が回らない。

変な事を言わないだろうか。
ユカが口を開く度に心配で仕方なかった。

『同居かぁ…… 翔って、ヘビースモーカーだから家にいるの辛いでしょ?』

冗談っぽく笑う。

煙草……か。
そういやしばらく吸ってないな。

色々あってそんな暇なかったし、それに……

『つか、そろそろ俺たち帰るわぁ』

これ以上話が進む前に席を立つ。
俯いて座っていた桜の手を取って……

『翔! またメールするね』

ユカは始終、笑顔だった……





『翔って煙草吸うんだね』

店を出てしばらく。
桜が言った。

『吸うけど、何で?』

『別に。 家で吸わないから何でかなぁって思って』

そう言って桜は背を向ける。
プゥと膨れた頬が可愛くて、からかうようにグリグリと頭を撫でた。

『妊婦の前じゃ吸えねぇっての!』

確かに最近は忙しくて、煙草を吸う暇もなかった。

それに、桜がお腹を庇(カバ)ってるの知ってたから、吸う気になれなかったってのも事実だよ……
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