過去作品集○中編
『ただいまー』
面と向かって会うのは、どうも気まずくて小声でお帰りとなった。
『翔! どこいってたの!?』
しかし桜は、そんな俺の気も知らずに胸倉に掴み掛かってくる。
『何言ってんの! 俺、作業着じゃん』
『あ、ホントだ』
何を言ってんだか。
仕事に決まっているのに……
『ユカさんの所かと思った……』
『ユカ?』
『昨日、元気なかったから』
ああ、そうか。
一日中、心配してたんだ。
俺が帰ってこないんじゃないかって不安だったんだ……
『あのさ、帰りにコンビニでプリンとかケーキ買ってきたんだけど……食うだろ?』
リビングの机で袋を逆さまにし、プリンやらをドサッと出す。
『あっ! 私これ食べたい!』
中々、お目が高い。
これは一番高いプリンだ。
桜が喜ぶと思って、カゴに入れたもの。
一番に選んでくれて、何だかこっちまで嬉しくなった。
『おいし~!』
スプーンに山盛りのプリンを頬張って、桜が笑う。
良かった。
思った通りの反応で……
『って……あれ? 翔は食べないの?』
ずっと見ているだけの俺に不思議そうな目を向ける。
『俺、甘いもん食えないんだよ』
『じゃあ何でこんなに?』
何でって、決まってるだろ?
『昨日のお礼だよ』
自分でも気付かなかった寂しさに気付いてくれたお礼。
胸を貸してくれたお礼。
こうして変わらず笑顔を向けてくれるお礼だよ……