過去作品集○中編

桜が帰ってきてくれてよかった。
それは本当に偽りのない本心だった……


『ユカさんと、よりを戻したんだよね?』

瞳を潤ませ、桜がぽつりと呟いた。

『……うん。 戻した……のかな』

どちらにしろ口紅を指摘されたからな。
隠す必要もないと思った。

『そっか。 じゃあ私は近いうちに出ていくから安心してね』

そう言って微笑んだ桜に胸が痛んだ事は、気のせいに出来なかった……

「行くなよ」
「ここにいろよ」

出ない言葉の代わりに、小さな体を思いきり抱きしめた。

ついさっき、ユカを支えていこうと決意したこの腕で。

『ちょ……翔!?』

『ごめん…… ちょっと疲れたから今日はこうさせて……』

どうする?
どうしたら桜を引き止められる?

恋人でもない俺には無理なのか?



《ぴんぽーん》

と、またもや玄関のチャイムが鳴る。

いつもそうだ。
こうゆう時に限って誰か来る。

『翔? 出ないの?』

『出ない……わけにはいかないだろうね』

俺は桜の体を解放すると、渋々玄関に向かった。

チェーンのかかったままの扉を開けてみると、そこには達也が立っていた。

『いきなりすぎなんだよ、お前』

溜め息混じりにチェーンを外して、達也を中に入れる。

『おっ! 女の靴じゃん! もう新しい女つくったの?』

『違うって。 ちょっと訳有り』

『へぇ』

「上がっていいよ」とも言ってもないのに、すでに靴を脱いでいる達也。

中には桜がいるのに……

俺は何とか言い訳して達也を玄関で止めると、リビングに戻った。

『翔? どうかしたの?』

『友達来たんだけど、俺の部屋に隠れてて』

『え? 何で?』

『いいから! 早く行けって』

ちっとも動こうとしない桜に苛立ちを感じながら、そう指図する。

しかし……

『隠そうとすんなって~』

痺れを切らした達也がリビングのドアを開けた。

待ってろって言ったのに……

『あ…… こ、こんばんわ』

桜の声は驚きのせいか少し裏返ったようだった。

だから隠れろって言ったのに……
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