過去作品集○中編
空が明るくなり始めた午前5時。
桜も達也も、床でクウクウと寝息を立てる。
俺は……眠れなかった。
本当に桜を手放す日が近いんだって、考え出したらキリがなくて……
『桜…… 家に帰るなんて言うなよ』
小さな手を握り、声を振り絞る。
『我が儘でもいいよ…… 一緒に住んでいこうよ』
涙が出そうだ。
桜を手放したくない。
ずっと、傍で笑っていてほしい。
まだ会って数日しか経ってないけど、大切なんだよ。
『そんなに好きなら、ちゃんと伝えろよ』
6時になって、目を覚ました達也はそう言って苦笑した。
聞いてたのか……
『いなくなってから伝えたくたって、遅いんだからな』
達也の言葉の重み。
よく解るよ。
実際に俺達はすれ違って、一人の女を傷付けあってしまった。
もう、あんな想いをしないように、伝えられる時に伝えなきゃいけない。
桜が大切なんだって……
『おはよう、翔』
じきに起きてきた桜は眠そうな目を擦り「達也さんいないねぇ」なんて言った。
今日の朝食は、目玉焼きにパンが2枚。
ぼーっとしながら食べる桜。
あんま寝れなかったんかな?
『なぁ、今度の休みに一回病院にいこうか?』
突然の言葉に驚いたのか、目は冴えたようだった。
でも、嫌そうな顔はしていない。
『俺が、父親として着いていくからさ』
病院で診てもらって、ハッキリとさせる。
それから考えるんだ。
これからの事を……