過去作品集○中編

痛みでまともに歩けない俺を、桜は小さな体で懸命に支え部屋まで連れてきてくれた。


そして……

『痛ってぇ! 優しくやってよ!』

背中だけかと思っていた怪我は、腕や足にもあって、全身を治療する必要があった。

『優しくなんかできません。 自分から飛び降りるなんて無茶して』

消毒液がしみて声を上げた俺に、きつい言葉……

でも元気な所を見れるなら腕や足の一本くらいどーでも良いやって思った。
大袈裟(オオゲサ)だけど。

『はい、おしまい! どうしても痛かったら病院に行ってね』

決して綺麗とは言えないグルグル巻きの包帯。
こんなんでも、病院に行ったら外されちゃうかと思ったら寂しいもんだ。

……痛くても行かないでおこう。

『何? ニヤニヤしちゃって』

『べっつにー』

そうはぐらかすと、桜は少し不機嫌そうだった。

というか、俯いて何か言いたいような、言えないような……
辛そうな顔をしていた。


『指輪だけどさ。「ユカが要らない」って言ったの嘘だから』

慰めようと、そう言って頭を撫でる。

『本当は、桜に似合うと思って買ったんだ』

桜の笑顔が見たい。
そう思ったのに、桜は俯いたままで、泣いているようにも見えた。

『翔…… ごめんなさい……』

そうか。
そんな顔をさせてるのは、きっと……

『私、指輪割っちゃったよ……』

もう、影も形もない指輪のせいだったんだ。

『ガラスだし割れても仕方ないって! また買えばいいじゃん』

目に涙を溜めて、フルフルと震える小さな肩。
不謹慎だけど、可愛くて仕方なかった。

『大丈夫。 これからいくらでも買ってあげるから』

肩を抱き寄せ髪を撫でる。
キスをしたいとはっきりと思った。

こんなに愛しくて、何故今まで気づかなかったのだろう……
< 24 / 120 >

この作品をシェア

pagetop