過去作品集○中編
痛みでまともに歩けない俺を、桜は小さな体で懸命に支え部屋まで連れてきてくれた。
そして……
『痛ってぇ! 優しくやってよ!』
背中だけかと思っていた怪我は、腕や足にもあって、全身を治療する必要があった。
『優しくなんかできません。 自分から飛び降りるなんて無茶して』
消毒液がしみて声を上げた俺に、きつい言葉……
でも元気な所を見れるなら腕や足の一本くらいどーでも良いやって思った。
大袈裟(オオゲサ)だけど。
『はい、おしまい! どうしても痛かったら病院に行ってね』
決して綺麗とは言えないグルグル巻きの包帯。
こんなんでも、病院に行ったら外されちゃうかと思ったら寂しいもんだ。
……痛くても行かないでおこう。
『何? ニヤニヤしちゃって』
『べっつにー』
そうはぐらかすと、桜は少し不機嫌そうだった。
というか、俯いて何か言いたいような、言えないような……
辛そうな顔をしていた。
『指輪だけどさ。「ユカが要らない」って言ったの嘘だから』
慰めようと、そう言って頭を撫でる。
『本当は、桜に似合うと思って買ったんだ』
桜の笑顔が見たい。
そう思ったのに、桜は俯いたままで、泣いているようにも見えた。
『翔…… ごめんなさい……』
そうか。
そんな顔をさせてるのは、きっと……
『私、指輪割っちゃったよ……』
もう、影も形もない指輪のせいだったんだ。
『ガラスだし割れても仕方ないって! また買えばいいじゃん』
目に涙を溜めて、フルフルと震える小さな肩。
不謹慎だけど、可愛くて仕方なかった。
『大丈夫。 これからいくらでも買ってあげるから』
肩を抱き寄せ髪を撫でる。
キスをしたいとはっきりと思った。
こんなに愛しくて、何故今まで気づかなかったのだろう……