過去作品集○中編
『何でキスするの?』
肩を抱き寄せ唇を寄せた俺を、桜が止める。
「何で」なんて、理由は一つしか無いのに。
『好きだから』
桜が可愛くて、愛しいから……
『私の気持ちも確認してないのに?』
こんなふうに拒まれたのは初めてで、どうしたらいいか戸惑う。
『私、翔が好き』
……え?
好きって……
いや、小さな声だから聞き間違えたかも知れない。
『こんな私に優しくしてくれて、守ってくれて。 そんな翔が好きだよ』
真っ直ぐに目を見て話す桜。
聞き間違えなんかじゃない。
俺達は、お互いを……
『あはっ、何でビックリした顔してるの?』
『……桜が俺の事好きなんて思ってもみなかったから』
『え〜! キスしようとしたのに?』
優柔不断で自分勝手。
自分でも嫌気がさすくらいの男なのに、そんな俺を好きになってくれるなんて夢にも思ってなかった。
『初めてのキスは、両想いになってからしたかったの』
はにかんで笑う桜の可愛さに堪(タマ)らず、その笑顔を自分の腕の中に閉じ込めた。
そして、俺と桜の初めてのキスを交わした……
その日の晩。
あの日と同じように、一つの布団で夜を過ごした。
桜を腕に抱きながら、とても暖かい夢を見たんだ。
小さな女の子がワンピースの裾をなびかせ、クルンと回る。
「パパ」
そう言っているような、唇の動き。
始終、少女は笑顔だった。
そんな夢……